2011年3月に発生した東日本大震災で、町の約40%が浸水し甚大なの被害を受けた山元町。当時、被災し行き場を失った人々の拠り所となったのが普門寺だ。津波で本堂はほぼ全壊したものの、地域住民や檀家、ボランティアのサポートのもと再建し、私設ボランティアセンター「おてら災害防災センター」を設立した。学生を中心としたボランティア団体を町へ呼び込み、地道な復興作業を行うほか、「寺マルシェ」をはじめとしたイベントを行うなど、現在も行政と協業しながら地域再生活動に取り組む。ボランティアと地域住民、行政を繋ぎ、コミュニケーションの場である普門寺を守り続ける坂野文俊住職に、山元町が次なるステージへ進むための課題と求める人材を尋ねた。
■ このプロジェクトパートナーと取り組むミッションは下記から
「山元町に年間500名来訪する学生ボランティアと地域の課題解決を行うプロジェクトの企画担当者を募集!」
みんなの拠り所になる新たなお寺づくりを
元々父親が近隣の寺の住職をしていたのだけど、幼い頃は自分が住職になるなんて考えたことがなかった。正直、そういった地域付き合いに煩わしさみたいなものを感じていたので、地元からは逃げ続けてばかり。でも父親の勧めで仏教学部がある駒澤大学に進み、その後は東京で修行をしました。その時は、卒業後は親父の寺で副住職になると思い込んでいたんですが、親父がこの普門寺の住職を兼務していたこともあり、ここの住職を私が務めることになりました。
ところがいざ普門寺に入ってみれば課題がたくさん。雨漏りがするボロボロのお寺だし、近隣のお寺との付き合いもあるため、運営するにはお金がかかるので、アルバイトをしながらなんとか続けてきました。大変なことがたくさんある中で、「どうせ住職をやるなら、自分が理想とするお寺やお坊さんの像を作っていこう」と思うようになりました。書物から物事を人に伝える住職ですが、自分が経験したことがないのに人に偉そうに言うのは嫌だったんですよ。そしてお寺の格式が高すぎる感じがあまり好きではなくて。困ってる時に気軽に立ち寄ったり、暇な時にお茶を飲みに来たりできるような、みんなの拠り所になるお寺を作っていきたいと思いました。
震災をきっかけに生まれた地域の結束
そうやって新しいお寺づくりを始めようとしたものの、やはり宗教的なことや伝統的なお寺のイメージがあって、なかなか形にすることは難しい。小さな町ですが、集落ごとに分断されているような少し閉鎖的な部分もありましたから。でもそれが、震災をきっかけに少しずつ変わったんです。震災時、この普門寺はボランティアセンターとして機能するようになりました。元々他のお寺に通っていた人も、そのお寺が被災して行けなくなったことをきっかけに足を運ぶようになったんです。元々閉鎖的だった集落同士が震災を乗り越えながら結びつき、深い信頼関係が生まれたように感じています。田舎のいいところは、一度信頼関係が生まれると強い結束が生まれること。これは山元町の魅力の一つでもあると思います。
もっと、人々が気軽に集まれる場所づくりを
震災の時、被災して地元から出なければならず、避難解除されても帰る場所がない人たちが本当にたくさんいました。震災をきっかけに地元を出た人の中には、「海が怖い」と言う人や、「地元を裏切った」と罪悪感を感じている人も多い。このお寺では、そんな被災者たちが帰ってきて滞在できる場所にしようと考えました。そのうち仲間がケーキを焼いてくれたのをきっかけに、ここで無料カフェを始めました。そしたら今度は手作りで何かやろうと言う人たちが集まってきて、ワークショップをしてもらいました。そこから毎月「寺マルシェ」というイベントを始めたら、20以上ものブースが集まるようになって。なかなかの規模感になってきたから、行政の協力のもと防災公園で、年一回のフェスを開催するようになりました。
地域の信頼関係が強まって町も復興してきた今、人が集まってコミュニケーションを取れる場所がもっと必要だと思います。喫茶店とか、アーティストの展示スペースとか、どんな形でもいい。椅子がそこにあるだけで人は集まってくるものですから、シンプルでもいいのでそういう場所を増やしたい。今はお寺の近所にパン屋さんを作ろうとしていて、まさに話を進めている段階。人々が交流する中で、きっと新たなアイデアもたくさん生まれることでしょう。
一人一人の魅力を活かし、山元町を新たなフェーズへ
いくらボランティアとはいえ、外から来た人にはどうしても警戒してしまうもの。私としては「どうやって地域の人々とボランティアの接点を設けていくか」を意識しています。今も多くのボランティアが来てくれますが、学生は特に、とても素直で色々なアイデアを持っている。ボランティアと聞くと災害復興のための作業って感じがするけど、ここでの作業はあくまでもコミュニケーションを取るためのツール。一緒に作業をする中でその人の魅力や得意分野を見つけて、活かしながら町づくりを行なっていきたいです。
私も人間ですから、今の活動がいつまで続けられるかわかりません。そういった意味でも、これからも多くの人の力が必要ですし、地域おこし協力隊の力をお借りしたいと思っています。もし地域おこし協力隊に求める資質を挙げるとしたら、リーダーシップが取れるかどうか。私は全国に色々な仲間がいますし、人との繋がりは多い方だと思います。協力してくれる人材はたくさんいるから、それをうまく取りまとめて企画を起こしてくれるような人が来てくれるとすごく助かります。そして何かを続けるためにはお金が必要になる。住民や行政を巻き込みながら、ビジネス的な視点で利益を生み出して、循環させていく仕組みを一緒に作りたいです。
とは言え、それぞれが持つ個性が重なりあって今がありますから、同じように「町を盛り上げたい」という気持ちがある人ならきっと何か面白いことが起きるはず。地域おこし協力隊として来てくれる人には、ぜひ自分の強みを発揮してもらいたいですし、一緒に楽しみながら何か面白いことができたらいいな、と思っています。