宮城県漁協仙南支所山元の岩佐敏運営委員長に聞く、漁業の今と、挑戦者を迎える気持ち
宮城県山元町・磯浜漁港。
岩佐運営委員長は、ここで40年以上、海とともに生きてきた漁師。
数えきれないほどの波を越えてきたこの浜で、今、新しい挑戦者を心から待ち望んでいる。
「海っていうのはね、やる気のある人にとっては、本当に宝の山なんだ。だから、まずは飛び込んでみてほしい。手を貸す人間が、ここにはいますから。」
震災前、磯浜漁港では100人近い漁業者が活動していた。現在はその数も減ったが、それでもこの港には、人と海との深いつながりが息づいている。
「昔は港もにぎやかでしたよ。若い衆も多くて、活気がありました。また、あの活気をなんとか取り戻したいと思ってる。」

「最初は見て、真似して、少しずつでいい」
「漁業って、いきなり全部できるようになるもんじゃない。最初は人の仕事を見て、少しずつ覚えていけばいい。」
そんなふうに岩佐さんは、漁業の入り口をとても自然に語る。
「ホッキやヒラメ、スズキ、タコ…。ここでは季節によっていろんな魚が獲れるけど、年によって違うこともある。水温も潮の流れも変わるから、同じようにやっても同じように獲れるとは限らない。でも、それが面白いところでもあるんだ」
漁場を読む力、海を感じる力。それは、一朝一夕では身につかない。けれど、丁寧に向き合えば、必ず答えてくれる。
「獲れる場所はね、みんなそれぞれ、自分の勘と経験で見つけてきた。そういうのも、やってみるうちに分かってくるんだ。」

「大事なのは、やる気と人柄。技術はあとからでいい」
「漁師に向いてるかどうかって、結局“人柄”なんですよね。こっちから教えたくなるような、素直で一生懸命な人。そんな人は、自然と仲間に溶け込める。」
厳しいこともある世界だからこそ、支え合いが欠かせない。
「この仕事は、一人で全部はできないから。困ったときに声をかけたくなるような人、みんなが助けたいと思うような人なら、自然と周りも支えるようになります。」
「最初はわからないことばかりで当たり前。でも、海に出てみたい、漁師になりたいって本気で思ってるなら、こっちも本気になって向き合うよ。」

「協力隊制度は、漁業を始める“いい入口”になると思う」
「ゼロから漁業を始めたいと思っても、いきなりは難しい。収入の不安もあるし、生活のこともある。そういう意味では、協力隊制度はすごく良いと思う。」
生活を支えながら漁業の現場に飛び込めるこの制度は、まさに“最初の一歩”を後押ししてくれる仕組みだと岩佐さんは語る。
「3年間、生活しながら経験を積んでいける。それは大きなチャンス。その中で漁師の基礎を覚えて、自信がついたら、自分で切り拓いていけばいい。」
そして、こう付け加えた。
「暮らしていく覚悟があるなら、うちらもできる限りサポートするよ。生活していけるところまでは、漁師みんなで一緒に考えていきたいからよ。」

この浜は、挑む人を歓迎する
インタビューの終わり、岩佐さんは少し笑いながらこう言った。
「若い人が、本気でやってみたいって来てくれたら、こっちはうれしいんだ。応援したくなるんだよ。」
磯浜漁港の漁業は、自然が相手の仕事。厳しいときもあるし、簡単に結果が出るわけではない。
でもその分、努力した分だけ手応えが返ってくる、ある意味、誠実な世界でもある。
一生懸命な人を、笑って迎えてくれる人がいる。
その事実こそが、磯浜漁港という“浜の懐の深さ”なのかもしれません。